医療統計
- 監修
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京都大学大学院医学研究科 医学統計生物情報学 教授
森田 智視 先生監修者の所属・役職は2023年5月時点の情報です
多重性の問題
多重検定
多重検定とは、統計的検定を何度も繰り返すことを指します。本当は差がないのに、偶然に有意差がでてしまう「αエラーの増加」が多重検定の問題であり、統計的多重性問題と呼びます。
多重検定は以下のような状況下で起こりえます。
- 比較群が3つ以上存在する
- アウトカムが2つ以上存在する
- 最終解析に加えて中間解析を行う
- データが同一個人内で時間経過とともに繰り返し計測されるときに、群間比較を複数回繰り返し行う場合
サブグループ解析における多重性の問題
サブグループ解析は、特定の属性をもった集団に注目し、その集団を対象として解析することですが、いくつもサブグループ解析を行うと、本当は差がないのに偶然に有意差がでる確率(αエラー)が増大します。
例えば以下のように、全く群間差がないような状況でも、有意水準5%でサブグループ解析を20回実施すれば、偶然に1回は統計的有意差が検出される可能性があります。
※サブグループ解析の解釈における注意点は、こちらのページをご参照ください。
中間解析における多重検定の問題
ランダム化試験では通常、検出力が十分に得られる範囲で必要最小限の症例数を算出し、その症例数に達するまで試験を継続した後、研究終了時にはじめて解析を行います。しかし、長期におよぶ研究では、事前計画の下で研究途中で解析を行い、予想以上の効果が観測された場合には研究を早期中止することがあります。しかし、特別な対応をせずに中間解析を行うと、多重検定によるαエラーが大きくなってしまいます。
例えば以下のように、最終的には有意な差がない場合でも、中間解析を何回も実施すれば1回は統計的に有意になってしまう可能性があります。
そこで、中間解析を繰り返し行うことによるαエラーの増大を防ぐため、以下のような方法を用いて中間解析における有意水準をより厳しく設定します。
- ピトー法:
- 中間解析の有意水準を0.001と厳しく設定することでαエラーを防ぐ一方、最終解析の有意水準は通常の0.05で設定する。
- ポコック法:
- 最終解析を含めた解析の総回数に応じて、各解析での有意水準を厳しく設定する。最終解析も中間解析と同様に厳しい有意水準を設定する。
- オブライエン-フレミング法:
- ポコック法と同様に解析総数に応じて有意水準を厳しく設定するが、特に開始初期の中間解析の有意水準を厳しく設定し、最終解析ではできる限り0.05に近づける。
参考
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- 新谷歩. 今日から使える医療統計.医学書院. 2015, p79-85, 93-100
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- 山崎力ほか. 臨床研究いろはにほ. ライフサイエンス出版. 2015, p64
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- 佐藤弘樹ほか. 臨床統計まるごと図解. 中山書店. 2013, p92-93
BLN224104IF1 2022年9月作成
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