医療統計
- 監修
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京都大学大学院医学研究科 医学統計生物情報学 教授
森田 智視 先生監修者の所属・役職は2023年5月時点の情報です
サブグループ解析の解釈
サブグループ解析
サブグループ解析は、試験に参加する患者全体のうち、ある特定の属性をもった集団に注目し、その集団(サブグループ)を対象として解析を行うことです。
臨床試験におけるサブグループ解析の主な目的は治療群間差の一様性を確認することです。薬効を調べる臨床試験では通常、主要評価項目(エンドポイント)における群間差を研究対象者全体での平均的なものとして評価します。その群間差がどのサブグループでもほぼ一様であることを確認する目的で複数のサブグループ解析の結果が示されます。治療とグループとの「交互作用」の解析が行われますが、サブグループでは症例数が少なく検出力が低くなるうえ、繰り返し検定を行うことになる多重性の問題も生じるため結果の解釈は慎重になるべきです。第一に集団全体の効果を評価し、参考情報としてサブグループ解析結果を解釈することが重要です。欧州医薬品庁(EMA)より発表されたガイドライン『Guideline on the investigation of subgroups in confirmatory clinical trials』では、サブグループ解析は3つの軸に分けて評価することが提案されています。
サブグループ効果に対する3つの評価軸(EMAガイドライン)
- 当該臨床試験集団での治療効果の一貫性(Consistency of the treatment effect)
- 理想的には事前に特定された生物学的尤もらしさ(Biological plausibility, ideally pre-specified)
- エビデンスの再現性(Replication of evidence)
サブグループ解析を解釈する際の留意点
留意すべきポイントとして①検出力の減少、②αエラーの増大があります。臨床試験は、全体集団においてプライマリエンドポイントを適切に評価できるように計画されているため、その集団の一部であるサブグループ解析の結果の統計的妥当については十分に保証されていません。症例数が減ることで統計的な検出力が減少するため、結果の解釈には注意が必要です。また、多重性の問題のページでも説明したように、サブグループ解析をいくつも行うと、本当は差がないのに偶然に有意差がでる確率(αエラー)が増大します。
データを読む際は有意差のみに着目しない
以下のハザード比のサブグループ解析の結果を例に、解釈における注意点を説明します。①では、ハザード比の信頼区間が1を含んでいません。ハザード比の精度を示す信頼区間が狭く、プロットの形が「陰性」「不明」グループとも異なることから、ホルモン受容体陽性グループでは新薬Xによる効果が大きい可能性はあると解釈できます。一方、②もハザード比の信頼区間が1を含んでいませんが、図をみると腫瘍サイズ≦2cmと>2cmの2つの信頼区間はほぼ同様のところにあります。
層別解析との違い
サブグループ解析と層別解析は同じ解析のように呼ばれていますが、これらは違うものです。層別解析はアウトカムに影響を与える可能性のある因子(予後因子)について層ごとに比較を行い、それらの結果を統合する解析手法です。予後因子の群間バランスが崩れたときにその偏りを調整するための手法です。層間で群間差が大きく異なるようなとき、特に群間差の方向が逆転するような場合には、層別解析を行うことは適切ではありません。
参考
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- 新谷歩. 今日から使える医療統計.医学書院. 2015, p125-133
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- 佐藤弘樹ほか. 臨床統計まるごと図解. 中山書店. 2013, p90-93
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- European Medicines Agency. Guideline on the investigation of subgroups in confirmatory clinical trials. 2019
https://www.ema.europa.eu/en/documents/scientific-guideline/
guideline-investigation-subgroups-confirmatory-clinical-trials_en.pdf
BLN224104IF1 2022年9月作成
『ビーリンサイト.jp』はアムジェンが運営する医療関係者向け情報サイトです。
こちらのページでは、抗悪性腫瘍剤/二重特異性抗体製剤ビーリンサイト(ブリナツモマブ)の医療統計 サブグループ解析の解釈をお届けいたします。